近年、企業の人材戦略において「多様な働き方」への対応は、もはや避けて通れないテーマとなっています。特に、正社員でありながらも、これまで当然とされてきた働き方の制約を緩和する「多様な正社員制度」への注目度が高まっています。
人事担当者の皆さんは、このような変化にどのように対応し、優秀な人材の獲得・定着を図っていくべきでしょうか。今回は、多様な正社員制度、特に「転勤なし」の働き方に焦点を当て、その背景と制度設計のポイントを深掘りしていきます。
注目が集まる「多様な正社員」制度とは?
現代において、社員の就労意識は大きく変化しています。以前のように「会社の命令とあれば、いつでもどこへでも配置転換を受け入れる」という働き方を前提としない層が増えてきました。特定の職務、勤務時間帯、あるいは就労場所で働き続けたいと希望する人が増えているのです。
かつて、こうした制約のある働き方は、非正規社員が担うケースが一般的でした。しかし、今は「同一労働同一賃金」の考え方が浸透し、正規・非正規間の不合理な待遇格差は許されなくなっています。さらに、人手不足が深刻化する現代において、非正規待遇では優秀な人材を確保することが極めて難しくなっているのが実情です。
このような背景から、正社員としての待遇を維持しつつ、職務内容や勤務時間、就労場所などの制約を緩和した働き方を許容する「多様な正社員制度」に大きな注目が集まっています。これは、企業が多様な人材を惹きつけ、定着させるための重要な戦略の一つと言えるでしょう。
「転勤忌避」を解決する切り札:地域限定社員制度の光と影
多様な正社員制度の中でも、特に多くの企業が導入を検討しているのが「地域限定社員制度」です。
その背景には、若年層を中心に顕著になっている「転勤忌避傾向」があります。最近の採用活動では、「転勤がある企業」というだけで学生から応募を敬遠されるケースも増えてきました。また、転勤がある前提で入社したにもかかわらず、いざ転勤命令が出された際に本人が拒否したり、最悪の場合、会社を辞めてしまったりというケースも頻繁に耳にするようになりました。
こうした状況を解決する切り札として期待されるのが地域限定社員制度なのです。
転勤は退職理由になり得るのか?
人事担当者としては、これまで通用していた転勤制度が使えないとなると、これまでの給与体系や就業規則の見直しや経営層へ理解を求める動きをしないといけませんよね。社員の転勤したくない気持ち+これまでの制度を大幅に見直ししないといけない大変さがあります。。実際に新卒・中途ともに転勤がある会社への応募や入社を回避する傾向が下記の通り分かります。
加えて、手当として、基本給の20%転勤手当があったとしてもおよそ半分は転勤を受け入れようとしないのが現実です。
そのため企業の大きさや特長にもよりますが、転勤手当が基本給の20%ほどであるならかなり採用数の取りこぼしが発生してそうです。そのため、人事制度の見直しを検討するフェーズであると考えます。


地域限定社員の「賃金設計」が公平性の鍵
地域限定社員制度を導入する上で、特に慎重な検討が求められるのが賃金設計です。
これまで、地域限定社員の賃金は、通常の「全国型」社員よりも若干低めに設定されることが多かったのは事実です。これは、全国型社員が「転勤命令を受けるリスク」を背負っていることに対する補償(転勤可能性への補償)という考え方に基づいています。
しかし、ここに新たな課題が生じています。全国型であるにもかかわらず、実際にはほとんど転勤を経験しない社員も一定数存在します。こうした社員と比較すると、地域限定型社員からは「転勤していないのに自分より賃金が高いのはおかしい」という不公平感が生まれやすくなってしまうのです。
この不満を解消し、より公平な制度とするために、以下のような新たな賃金設計に転換する企業も現れています。
- ベースとなる賃金は全国型と同一とし、実際に転勤が発生した場合にのみ手当を加給するポリシー(転勤事実への補償)。
- あるいは、「転勤可能性への補償」と「転勤事実への補償」を併用する。
人材獲得競争が激化する現代において、多様な正社員の獲得と定着を促進するためには、各社が知恵を絞り、より魅力的で公平な制度を設計していく時代になっていると言えるでしょう。
まとめ:多様な正社員は「選ばれる会社」になるための戦略
「多様な正社員制度」は、単なる福利厚生の拡充ではありません。これは、変化する社会や就労意識に対応し、企業が「選ばれる存在」となるための重要な人事戦略です。
特に、地域限定社員のような転勤なしの働き方は、ワークライフバランスを重視する層や、家庭の事情などで転居が難しい層にとって、非常に魅力的な選択肢となります。逆に転勤したいという社員も確実に一定数存在します。家庭の仲があまりよくないや様々な地域で経験を積みたいなど。。
人事担当者として、自社の経営戦略と人材戦略を密接に連携させながら、どのような多様な正社員制度を導入し、どのように運用していくか。そして、既存の社員との公平性をどのように担保していくか。これらの問いに向き合うことが、これからの採用競争を勝ち抜く上で不可欠です。
あなたの会社では、多様な正社員制度の導入について、どのような検討を進めていますか? ぜひ、コメント欄で皆さんの取り組みや疑問をお聞かせください!
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