【人事担当者必見】副業・兼業の「リアル」:解禁のメリットと潜む労働時間管理の落とし穴

人事


近年、企業の人事戦略において「副業・兼業」というキーワードが大きな注目を集めています。かつては多くの企業で禁止されるのが当たり前だった副業・兼業ですが、今はその流れが大きく変わりつつあります。

しかし、単に「解禁します」と宣言するだけでは、そのメリットを最大限に享受することはできません。人事担当者としては、その背景にある「なぜ今解禁するのか」という意図から、実際に運用する上での具体的な課題まで、深く理解しておく必要があります。

今回は、私自身も導入するのに色々と苦労した副業・兼業の「リアル」に迫ります。


副業・兼業「解禁」の波:なぜ今、企業は動き出すのか?

長らく日本の多くの企業では、社員の副業・兼業を原則として禁止してきました。その主な理由は、社員の職務専念義務秘密保持義務といった服務規律との両立が難しいとされてきたからです。私自身導入にあたり「副業を許可して競合他社に情報が洩れたらどうするの?」や「本業が疎かになったら元も子もないでしょ。」という意見が社内から上がってきましたが、どの企業でもこの意見は確実に上がってくると思います。。

しかし、近年、この状況は大きく変化しています。企業の経営層や人事担当者の間で、社員の副業・兼業がもたらす多岐にわたるメリットが広く認識されるようになってきました。

具体的には、以下のような点が挙げられます。

  • 知識・スキルの蓄積効果: 社員が社外で新たな知識やスキルを習得し、それを本業に還元することで、組織全体の能力向上につながります。
  • 優秀人材の離職防止: 社員の多様な働き方やキャリア形成のニーズに応えることで、エンゲージメントを高め、優秀な人材の流出を防ぐ効果が期待できます。
  • 社員のエンゲージメント向上: 自己成長の機会が広がることで、社員の仕事へのモチベーションや満足度が向上し、結果的に生産性アップにも寄与します。

こうした認識の変化は、具体的なデータにも表れています。日本経団連の2022年の調査によれば、7割を超える企業が社外での副業・兼業を既に認めているか、あるいは認める予定であると回答しています。

さらに、厚生労働省が公表している「モデル就業規則」においても、「従業員は副業・兼業を行うことができる」旨が明記されており、国としても副業・兼業を後押しする姿勢が明確になっています。


人事担当者が直面する課題:複雑な労働時間管理の現実

副業・兼業の推進において、人事担当者が最も頭を悩ませる課題の一つが「労働時間管理」です。

労働基準法第38条1項には、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と明記されています。これは事業主が異なる場合にも適用されるため、社員が副業・兼業を行う際には、本業と副業・兼業先の勤務実態を正確に把握し、労働時間を合算した上で、時間外労働の上限規制を遵守しなければなりません

厚生労働省からは、時間外・休日労働の上限規制を守ることを前提とした「簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)」も提示されていますが、実務においてはその煩雑さは否めません。特に、副業先での労働時間を従業員からの申告に頼る部分が大きく、正確な実態把握が困難なケースも少なくないのが現状です。

こうした状況を踏まえ、多くの企業では、労働基準法が適用されない「業務委託契約」に限り副業・兼業を認めるという方針を採っています。

しかし、この方針は新たな課題を生み出します。業務委託契約に限定してしまうと、社員が兼業できる業務が著しく限定されてしまうのです。

例えば、

  • 「得意なプログラミングスキルを活かして、IT企業からプログラム開発を請け負う」といった業務委託契約での働き方は可能。
  • 不動産売買の仲介は可能。
  • Webサイトの構築を請け負うことは可能。
  • しかし、「所得補填のために終業後に近所のスーパーでアルバイトをする」といった雇用契約での働き方は認められない。

これでは「副業・兼業を解禁したものの、ごく一部の社員しかその恩恵を受けられない」という結果になりかねません。人事担当者としては、制度を設計する上で、社員の多様なニーズに応えつつ、労務リスクを最小限に抑えるための慎重な検討が求められます。

その他にも副業先の勤務条件にもよりますが、社会保険料労災保険の負担増などの問題も発生します。

副業・兼業メリット・デメリット

上記も踏まえ副業や兼業を容認するメリット・デメリットは下記のとおりです。

メリットデメリット
従業員の成長・スキルアップの促進本業の生産性
従業員の人脈の拡大情報漏洩・その他コンプライアンス違反リスク拡大
優秀な人材の確保・離職防止従業員の健康状態
従業員の収入増加

まとめ:副業・兼業、制度設計のポイントは「多様性」と「リスクマネジメント」

副業・兼業の解禁は、企業にとって大きなメリットをもたらす一方で、労働時間管理をはじめとする法的な課題や実務上の難しさも伴います。

人事担当者としては、単に「解禁する」だけでなく、どのような副業・兼業を、どのような条件で認めるのか、そしてそれに伴う労務リスクをどのように管理していくのかを明確に定義し、社員に周知徹底することが極めて重要です。

副業解禁している企業が増えていることに加え、従業員からも副業認めてほしいという声が出てくるご時世の中で社員が主体的にキャリア形成やスキルアップができ企業としても効果的な支援が必要不可欠になってくるかと思います。

企業の健全な経営を維持するために、皆さんの会社ではどのような副業・兼業制度を検討されていますか?

ぜひ、コメント欄で皆さんのご意見やご質問をお聞かせください!

コメント

タイトルとURLをコピーしました