人材獲得競争が激化する現代において、多くの企業が頭を悩ませています。そんな中、新たな採用チャネルとして注目を集めているのが、アルムナイ(元従業員)の存在、そして彼らを再び迎え入れるカムバック採用です。本記事では、人事担当者の皆さんが知っておくべきアルムナイとカムバック採用の重要性、その背景、そして具体的なメリットについて詳しく解説します。
注目が高まるアルムナイの価値
アルムナイとは、もともと「卒業生」や「同窓生」を意味する言葉ですが、ビジネスにおいては「以前自社に在籍し、自己都合やむを得ない事情で退職した元従業員」を指します。
これまでの日本のメンバーシップ型雇用においては、中途退職者は一度組織を離れた人材とみなされ、再び企業に戻ることは稀でした。しかし、時代は大きく変化しています。人材獲得競争の激化、そしてジョブ型雇用への移行が進む中で、「退職者=裏切り者」という意識は薄れ、アルムナイは非常に価値のある採用候補者として再評価されています。

アルムナイが注目される背景には、以下のような点があります。
- 他社での貴重な経験: 退職後に他社で培った知識や経験は、自社に新たな視点やイノベーションをもたらす可能性を秘めています。
- 高いエンゲージメント: 自社の企業文化や風土、仕事の進め方を熟知した上で入社を希望するため、入社後のミスマッチが少なく、最初から高いエンゲージメントを期待できます。
- 人的資本経営の推進: 従業員を単なるコストではなく、「人的資本」として捉え、その価値を最大限に引き出す人的資本経営の観点からも、アルムナイは重要な存在です。経済産業省の「伊藤レポート2.0」でも、アルムナイ人材が持つ自律的なキャリア意識や明確な目的意識は、企業価値向上に寄与するとされています。
カムバック採用を促進するアルムナイネットワークの力
単にアルムナイの再雇用を解禁するだけでなく、多くの企業がアルムナイネットワークの形成を積極的に支援し始めています。これは、元従業員と企業が継続的に繋がりを持つための取り組みです。

具体的には、以下のような活動が行われています。
- コミュニケーション手段・機会の提供: アルムナイ向けの専用プラットフォームや定期的な交流会を通じて、元従業員同士、そして企業とアルムナイが繋がれる場を提供します。
- 企業情報の定期的な提供: 会社の最新情報、事業の進捗、採用情報などを定期的に共有することで、アルムナイが自社への関心を持ち続けることを促します。
- カムバック保証: 事例はまだ少ないですが、企業によっては、特定の条件を満たすアルムナイに対して一定期間の再雇用を保証する制度を設けるケースもあります。
このようなアルムナイネットワークを構築することで、アルムナイは企業の「社外ファン」となります。彼らにとっては「以前の勤務先が次の転職有力候補先」という認識が生まれ、企業にとってはアルムナイネットワークが「有望な採用候補者プール」として機能するようになります。これにより、結果的にカムバック採用の可能性が飛躍的に高まるのです。
カムバック採用は、ジョブ型雇用が浸透している欧米企業では珍しいことではありません。日本企業においても、即戦力の確保、採用ミスマッチの低減、採用コストの削減といった多くのメリットから、今後ますます増加していくと予想されます。
アルムナイ・カムバック採用の具体的な企業事例
多くの日本企業が、アルムナイやカムバック採用に積極的に取り組んでいます。その一部をご紹介しましょう。
- トヨタ自動車株式会社: 「プロキャリア・カムバック制度」を設けており、配偶者の転勤や介護を理由に退職した事技専門職以上の社員が再入社できる制度です。これは、優秀な人材の離職を防ぎ、再び自社で活躍してもらうための明確な取り組みと言えるでしょう。
- 株式会社明治: 「リ・メイジ制度」を導入し、正規従業員として3年以上勤務後に退職した社員を対象に再雇用を行っています。過去の経験と知識を活かし、即戦力としての活躍を期待しています。
- コクヨ株式会社: 「自己都合退職者再雇用制度」を実施しており、結婚、出産・育児、介護、配偶者の転勤、留学など幅広い退職理由を対象としている点が特徴です。社員の多様なライフイベントを尊重し、キャリア継続を支援しています。
- 株式会社マクロミル: 2024年5月には、正式にアルムナイ採用を開始し、退職者コミュニティ「ミル卒」を立ち上げました。コミュニティを通じて、退職者と継続的に関係を築き、再雇用に繋げていくことを目指しています。
- 中外製薬: 退職者再雇用登録制度を「アルムナイ制度」として刷新し、単なる再雇用だけでなく、退職者と継続的につながることを目的としています。情報交換や交流を通じて、将来的な再雇用へと繋がる関係性を築いています。
これらの事例からもわかるように、企業はそれぞれの事情や目的に合わせて、アルムナイとの関係構築やカムバック採用の制度を工夫しています。
人事担当者が今、考えるべきこと
アルムナイとカムバック採用は、単なる採用手法にとどまらず、企業の人材戦略において非常に重要な要素です。退職者との良好な関係を維持し、彼らを将来の貴重なリソースとして捉えることは、持続的な企業成長に不可欠です。
特に入社してくれた人に定年まで働いてもらいたいという思いは企業側のエゴです。私たち人事は企業側が求めるエゴに加え、従業員一人一人が思うエゴにも寄り添い両方にメリットを見出してもらうことが仕事の一つです。
貴社では、アルムナイとの関係構築やカムバック採用について、どのような取り組みを進めていますか? ぜひこの機会に、貴社の採用戦略にアルムナイの視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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