ダイバーシティ&インクルージョン:多様な個性を力に変える、働きがいのある組織へ

採用

人事担当者として、私たちが日々大切にしているテーマの一つがダイバーシティ&インクルージョン(D&I)です。この取り組みは、単なる企業のイメージアップ戦略ではありません。多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮し、誰もが「ここに自分の居場所がある」と感じられる環境を築くことで、組織全体の成長とイノベーションを加速させる、非常に重要な経営戦略だと考えています。そこで今回は人事としてなぜダイバーシティ&インクルージョンを考える必要があるのかの基本をお伝えしていきます。

なぜ今、D&Iに取り組むのか? その意義と目的

グローバル化の進展や働き方の多様化により、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。それに伴い、私たち従業員の構成もますます多様になっています。性別、年齢、国籍、性的指向、障がいの有無といった表層的な多様性から、個人のパーソナリティや価値観、経験といった深層的な多様性まで、様々な背景を持つ人々が共に働くようになりました。

このような多様な人材の能力を最大限に引き出し、その恩恵を組織全体で享受するために、D&Iへの取り組みが不可欠となっています。近年では、さらに「エクイティ(公平性)」と「ビロンギング(帰属性)」の視点を加えた「DEIB」という言葉もよく使われるようになりました。

  • ダイバーシティ(多様性):年齢、性別、性的指向、障がいの有無などの表層的要素や、パーソナリティ、価値観といった深層的要素が組織に存在する状態を指します。
  • エクイティ(公平性): 個々人の特性やバックグラウンドに合わせて、機会の調整や配慮がなされ、誰もが公平なチャンスを得られる状態です。
  • インクルージョン(包摂性): 誰もが組織から排除されず、自身の強みを発揮して活躍できると感じられる状態を意味します。
  • ビロンギング(帰属性): 組織の一員であることを誇りに感じ、組織のために貢献したいと思える、心のつながりのような状態です。

これら4つの要素を高め、働く一人ひとりが「この会社は自分の居場所だ」と心から感じられる環境を創出すること。これこそが、ダイバーシティ&インクルージョンの目指す姿です。

D&Iがもたらす効果:組織の成長と個人のウェルビーイング

D&Iへの取り組みは、企業に計り知れないメリットをもたらします。

まず挙げられるのは、イノベーション力の強化です。同質性の高い組織では、どうしても発想が偏りがちになります。しかし、多様な視点や異なる経験を持つ人々が集まることで、これまで気づかなかった新しいアイデアや解決策が生まれる可能性が高まります。これは、新たな事業や製品、サービスへと繋がり、企業の競争力を高める原動力となります。

また、多様性が高まることは「集団浅慮(Groupthink)」の回避にも繋がります。

集団浅慮とは、組織内の同調圧力によって、本来であれば好ましくない判断を下してしまう現象のことです。多様な意見が活発に交わされる環境では、このようなリスクを軽減し、より多角的で健全な意思決定を促すことができます。

皆さんも一度は上司がこういっているからよく理解できないけどこの通りにしないといけないんだと判断してしまった経験はないでしょうか?これが集団浅慮です。

さらに、D&Iに積極的に取り組む姿勢は、従業員のエンゲージメント向上や定着率の改善に直結します。従業員が自分らしく働ける環境だと感じられれば、モチベーションも高まり、結果として生産性の向上にも繋がります。加えて、求職者にとっても魅力的な企業として映り、採用競争力の強化にも大きく貢献するでしょう。

D&Iの主要テーマ:なぜ「女性活躍」が重要なのか

D&Iの推進において、特に注目されているテーマの一つが「女性活躍推進」です。よくニュースなどで女性活躍に関して聞いたことや社内で検討したことがあるのではないでしょうか?そもそも政府が「女性版骨太の方針2024」で、企業における女性活躍の推進、所得向上、経済的自立、個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現、そして取り組みの加速化を4つの柱として掲げています。

また、近年義務化された人的資本情報の開示では、女性管理職比率などの情報が有価証券報告書への記載を求められるようになりました。これは、企業が女性活躍推進にどれだけ真剣に取り組んでいるかを、社内外に明確に示す指標となっています。

女性活躍に関してどんな取り組みをしたら良いかは上場企業の人的資本情報の開示をいくつか見てみると具体的な方針や施策の知見を得ることが出来ます。

実質的な機会均等を実現する「ポジティブ・アクション」

内閣府男女共同参画局は、ポジティブ・アクションを「社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置」と定義しています。

例えば、女性を例に取ると、過去の採用における不平等、評価における偏見、難易度の高い業務へのアサイン機会の不足、ロールモデルの不在、家庭内労働の男女不均衡など、様々な社会的・構造的な差別が存在してきました。

ポジティブ・アクションは、このような状況を是正し、真の意味での機会均等を実現するための積極的な取り組みです。具体的には、管理職ポストへの女性の積極的な登用などが、その一例として挙げられます。これは、過去の不均衡を是正し、多様な視点を持つリーダーを育成することで、組織全体の活性化に繋がる重要な施策です。

見えない偏見に気づく「アンコンシャスバイアス」

D&Iを推進する上で、私たちが常に意識すべきなのが「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見や思い込み)」です。

  • ステレオタイプバイアス: 特定の集団に対する固定観念。
  • 確証バイアス: 自分の考えを裏付ける情報ばかりを集め、反証する情報を無視する傾向。
  • 正常性バイアス: 異常事態を「正常」と認識し、過小評価する傾向。
  • ハロー効果: 特定の優れた点に引きずられて、他の評価も高くしてしまう傾向。
  • 親和性バイアス: 自分と似た人に好意を抱き、高く評価してしまう傾向。
  • 慈悲的差別: 善意から行われるが、結果として相手の成長機会を奪う差別。

これらは、私たちが情報を瞬時に処理し、判断するために必要な認知メカニズムの一部であり、完全に無くすことはできません。しかし、これらのバイアスが人事評価や採用、チーム運営において悪影響を及ぼす可能性があることを理解し、意識的にその影響を軽減しようと努力することが極めて重要です。研修などを通じてアンコンシャスバイアスへの理解を深め、自身の思考パターンを客観的に見つめ直すことが、D&I推進の第一歩となります。

まとめ:D&Iで実現する「全員が輝く組織」

ダイバーシティ&インクルージョンは、単なる人事施策に留まらず、企業の持続的な成長と発展に不可欠な経営戦略です。多様な人材がそれぞれの個性を活かし、公平な機会を得て、組織に貢献できる。そして、誰もが「自分はここにいてもいいんだ」と感じられる居場所がある。そんな組織こそが、これからの時代に求められる「全員が輝く」強い組織だと信じています。

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