育休もらい逃げとは何か?—俗語の定義と誤解
最近、「育休もらい逃げ」という言葉がSNSやニュースコメント欄で頻繁に見られるようになりました。
この言葉は法律用語でも公的な制度名でもなく、ネット上で生まれた俗語です。一般的には、以下の流れを経た人に対して、否定的な感情を込めて使われるケースがほとんどです。
- 育児休業を取得する
- 育児休業給付金を受け取る
- 復職せず、または復職後すぐに退職する
しかし、この「もらい逃げ」という表現は、制度の仕組みを正しく理解していないまま感情論で使われているケースも多く、誤解を生みやすい言葉でもあります。まずは、育休制度の基本的な仕組みを冷静に確認しましょう。
⚖️ 育児休業と給付金の基本的な仕組みを理解する
まず前提として、育児休業は労働者の正当な権利であり、会社からの恩恵ではありません。
一定の条件を満たす労働者であれば、性別を問わず取得できます。
また、育児休業中に支給される「育児休業給付金」も、会社が負担するものではありません。
| 項目 | 詳細 | 補足事項 |
|---|---|---|
| 育児休業 | 労働者の権利(育児・介護休業法に基づく) | 会社は原則として拒否できない |
| 給付金の財源 | 雇用保険制度(国からの支給) | 会社のお金ではない |
| 受給条件 | 雇用保険加入、一定期間以上の就業、育休中に賃金が支払われていないことなど | ハローワークを通じて手続きを行う |
重要なのは、給付金が雇用保険という社会保険の仕組みから支払われているという点です。これは、私たちが毎月の給与から納めている保険料を基にした相互扶助の制度です。

ただし、育休や保育園申し込みに必要な申請書類を企業の育休担当者が作成するためその工数は会社として発生します。
🚨 育休後に復職せず退職するのは違法なのか?

結論から言えば、育休後に復職せず退職することは違法ではありません。
法律上、育児休業を取得した人に対して、以下のような義務は定められていません。
育休中や育休終了後に、家庭環境の変化、体調不良、保育園が決まらない、仕事と育児の両立が現実的でないといった理由で退職を選ぶことは、労働者として正当な判断です。
また、育児休業給付金についても、原則として返還義務はありません。
最初から退職する意思があり、復職の意思がないことを隠して育休を取得・給付金を受給した場合などは、詐欺の可能性を指摘される場合があります。
しかし、多くの場合、育休中にやむを得ない事情で退職を決意しているため、給付金が問題になるケースは極めて稀です。
👥 なぜ「もらい逃げ」と批判されるのか?—感情論と制度のズレ
制度上問題がないにもかかわらず、なぜここまで批判的な言葉が使われるのでしょうか。背景には、日本の職場文化や感情の問題があります。
- 「復職前提」という暗黙の期待:
会社や同僚は「人が戻ってくる」という前提で、人員補充を最小限に抑えたり、業務の調整を行ったりします。 - 現場の負担増加:
予定外の退職によって、結果的に現場の人員補充が間に合わず、残された社員の負担が増大します。 - 「裏切り」という感情:
会社側や同僚が、業務調整の労力、そして「待っていた」という事実から「裏切られた」と感じてしまうケースがあります。
法律や制度は「復職を義務」としていない一方で、現場では「戻ってくるもの」という期待値が先行します。
この制度と職場の期待値のすれ違いこそが、「もらい逃げ」という強い言葉を生み出してしまう根本的な原因です。

育休を取る人の業務は誰かが負担しないといけないため、会社側がその配慮をしなければすれ違いが発生してしまいますね。
⚖️ 批判は誰に向かうべきか?—個人の問題ではない構造
冷静に考えると、「もらい逃げ」という言葉は個人を責める言葉として機能していますが、問題の本質は個人にはありません。
本当に問題視すべきなのは、以下の会社側・社会側の仕組みの弱さです。
- 育休を取ると職場が回らなくなる構造
- 代替要員を確保できない、またはしない人員配置
- 育休後の柔軟な働き方(時短、リモートワークなど)が整っていない環境
- 少子化対策としての育休制度が、職場環境と連動していない社会構造
個人が制度を正しく利用しただけで批判される状況は、結果的に育休取得そのものを萎縮させ、ひいては少子化対策にも逆行します。
問題の解決には、個人のモラルを問うのではなく、企業が育休をリスクと見なさないための仕組みづくりが不可欠です。
📝 育休後に退職を考える人が知っておくべきこと
感情論に振り回されず、情報を整理することが大切です。育休後に退職を検討する際は、以下の実務的な注意点があります。
- 給付金は原則返還不要:
法的に問題ありません。 - 退職のタイミングと会社規定:
会社の就業規則(退職の申し出期間など)を確認し、円満退職を目指して早めに相談するのが望ましいです。 - 失業保険(雇用保険):
育休後の退職は「正当な理由のある自己都合退職」と認められやすく、給付制限(通常2〜3ヶ月)なしで受給できる場合がありますが、ハローワークでの確認が必要です。 - 保育園の継続利用:
自治体によっては、「育休明けの求職活動」を理由に継続利用が認められる期間が設定されていることがあります。念のため、お住まいの自治体の窓口で確認しましょう。
💡 まとめ:育休もらい逃げという言葉に振り回されない
「育休もらい逃げ」という言葉が示すのは、個人の道徳観の欠如ではなく、育休制度を円滑に運用できていない職場の課題です。
| 整理ポイント | 事実(制度・法律) | 感情論(職場文化) |
|---|---|---|
| 給付金 | 雇用保険から支給される正当な権利。会社負担ではない。 | 会社が待っている間に、会社に貢献せずにお金をもらっている。 |
| 退職 | 労働者の自由であり、法的に問題はない。 | 人員調整の努力を無駄にした「裏切り」である。 |
| 本質 | 復職を義務化しない制度と、復職を前提とする職場文化のズレ。 | 現場の負担増に対する不満や不公平感。 |
育休制度は、子どもを育てるための社会的な仕組みであり、誰かを責める言葉として使われるべきものではありません。この俗語に惑わされず、制度の力を活かし、同時に職場環境の改善を求めていく姿勢が、社会全体に求められています。

育休取得後に退職を考えている人は、人の本性は去り際に出ると言われています。だからこそ円満ではなくとも周りの方に感謝して退職することが私は大切だと考えています。
また会社としても育休取得者が復帰後もここで働きたいと思ってくれるような文化の醸成や仕組みづくりが大切ですね。
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