IT企業の面接で「強みはコミュニケーション能力です」とアピールする方は多いですが、実はそこに大きな落とし穴があります。
多くの方がイメージする「周囲と円滑に話せる力」は、エンジニアの現場では最低限の前提に過ぎません。私たちがプロのエンジニアとして求めているのは、愛想の良さではなく、「複雑な情報を正確に整理し、誤解をゼロにする伝達力」です。
なぜ、この力が「技術力以上に大切」なのか。それは、IT現場でのわずかな認識のズレが、作業の致命的な停滞や、取り返しのつかない「システム事故」に直結するからです。
この記事では、現場で生き残るために必須となる「エンジニア特有のコミュ力」の本質を解説します。
整理と伝達ができないと「現場が詰まる」3つのリスク

IT現場において、コミュニケーションの失敗は単なる「気まずさ」では済みません。具体的な実害として、以下のような致命的な停滞を引き起こします。

① 「何度言っても設計書が直らない」問題
エンジニアの上流工程(要件定義や設計)での仕事は、書いた図面やコードをチームメンバーや有識者にチェックしてもらう「レビュー」の繰り返しです。ここで「情報の整理力」が欠けていると、指摘された意図を正しく解釈できず、修正漏れが発生したり、的外れな修正をしてしまったりします。
人事は、何度も同じ指摘を受ける人を「技術がない」とは思いません。「人の話を整理して受け取る能力が足りない」と判断します。このキャッチボールが滞ると、設計書1枚完成させるのに通常の数倍の時間がかかり、プロジェクト全体の納期を圧迫することになります。

何度言っても修正されないとチームの雰囲気も段々悪くなりますし、有識者からの印象が悪くなり成果物の品質が安定しなくなります。
② 「何が言いたいか不明」で作業が止まる問題
未経験のうちは「分からないこと」を先輩に聞くのが仕事です。しかし、ここで「正確な伝達力」がないと、「何に困っているのか」が相手に伝わりません。「なんか動かないんです」という曖昧な報告では、先輩もアドバイスのしようがなく、質問の意図が伝わらないまま1時間、2時間と時間が過ぎていく……。これはチームにとって大きな損失です。

相手の立場に立ってどんな質問をすればいいか考え実行する力が重要です。
③ システム全体を止めてしまう重大事故
そして最も恐ろしいのが、判断のミスです。根拠のない曖昧な判断でシステムを操作してしまうと、万が一不備があった際、自身の担当領域に留まらず他のシステムへも影響が波及し、システム全体を停止させてしまう恐れがあるからです。
以下の表に、コミュ力不足が招く現場のリアルな末路をまとめました。
| コミュ力の要素 | なぜ必要なのか? | 欠如した場合の現場のリアルな末路 |
|---|---|---|
| 情報の整理力 | 指摘や要件を正しく解釈するため | 「レビュー指摘が反映されない」と周囲の信頼を失い、設計書が完成しない。 |
| 正確な伝達力 | 疑問点や状況を正しく伝えるため | 「意図が伝わらず問題解決できない」。質問に答えてもらえず作業が停滞する。 |
| リスク管理力 | 影響範囲を正しく共有するため | 「なんとなく」の操作で他システムを巻き込む大事故を起こす。 |

このように、ITにおけるコミュニケーションは、単なるやり取りではなく、「業務効率とリスク管理そのもの」なのです。
核心その①:抽象を具体に変える「情報の整理力」
エンジニア(特にSE)の仕事は、顧客の「ふわっとした要望」を「カチッとした仕様書」に変えることです。ここで必要になるのが整理力です。
5W1Hで情報を構造化する
「システムが遅い」と言われたとき、そのままエンジニアに伝えても解決しません。「いつから?」「どこが?」「誰が?」「どんな風に?」といった情報を5W1Hのバケツに整理して、プログラミングできるレベルまで具体化する作業が、IT現場の「会話」の正体です。
「事実」と「推測」を分ける
整理力が高い人は、無意識に「起きている事実」と「自分の考え(推測)」を分けて話します。「サーバーが落ちているようです(推測)」ではなく、「管理画面にアクセスしたところ、500エラーが返ってきました(事実)。負荷による停止だと考えられます(推測)」と言えるかどうか。この差が、プロとしての信頼感に繋がります。
核心その②:認識のズレをゼロにする「正確な伝達力」
どれだけ頭の中で情報を整理できても、相手に正しく伝わらなければ意味がありません。特に障害対応時はスピードと正確性が命です。
結論から話す(PREP法)
エンジニア同士の会話に「起承転結」はいりません。「結論」「理由」「具体例」「結論」の順で話すことで、相手が「次に何をすべきか」を即座に判断できるようになります。
言葉の定義を揃える
「すぐにやっておきます」の「すぐ」は、5分後でしょうか?1時間後でしょうか?優秀なエンジニアは、「15時までに完了させます」と具体的な数字を使います。曖昧な表現を排除し、誰が聞いても同じ解釈になる言葉を選ぶのが、正確な伝達力の基本です。
未経験者が面接で「コミュ力」を証明する3つの方法
「IT業界のコミュ力」が理解できたら、それをどう面接でアピールするか。人事が納得するポイントは3つです。

① 「結論から話す」を徹底する
面接官の質問に対し、まずは「結論から申し上げますと……」と話し始めてください。これだけで「この人は情報を整理する癖がついている」と判断されます。

「結論から申し上げますと」以外には、何も前置きを使わずに結論を話すこともスマートで結論から話す癖がついている印象があり良いですね!
② 失敗経験の伝え方を変える
単に「謝りました」ではなく、「ミスをした際、なぜ起きたのか原因を特定し、再発防止のためにどう行動したか」を伝えてください。これが、前述した「自分の担当以外に影響を出さないための責任感」の証明になります。
③ 分からないことを「分からない」と言えるか
実は、これこそが最強のコミュ力です。分からないまま「なんとなく」で進めるのが一番危険だからです。「今の質問の意図は、〇〇という理解で正しいでしょうか?」と、その場で認識のズレを解消しようとする姿勢を、人事は高く評価します。
結論:コミュ力は「誠実さ」の現れである
エンジニアに必要なコミュニケーション能力とは、突き詰めれば「仕事に対して、そして関わる人々に対して誠実であること」の現れです。
「自分がなんとなく操作することで、システム全体を止めてしまうかもしれない」という緊張感、あるいは「自分の伝え方が悪いせいでチームの時間を奪いたくない」という配慮を持っている人は、自ずと言葉が正確になり、情報の整理を怠らなくなります。
口下手でも構いません。陽気でなくても大丈夫です。まずは「相手と自分の認識を1ミリもズラさない」という意識を持つことから始めてみてください。
その姿勢こそが、あなたをエンジニアとして成功させる最強の武器になります。
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