メンバーシップ型とジョブ型:それぞれの「価値」と「適材適所」の考え方
雇用や人材マネジメントには、「メンバーシップ型」と「ジョブ型」という2つの主要な考え方があります。
まず、メンバーシップ型は、組織の構成員である「人そのもの」に価値を置きます。個人の成長や、組織内での影響力を重視し、「保有する人材」を前提に「組織や職務を最適化」していく「適材適所」の考え方が基本です。
一方、ジョブ型は「職務」に価値を置きます。明確に定義された職務に最適な人材を割り当てるため、「あるべき組織・職務」を前提に「ふさわしい人材」を定義し、配置する「適所適材」の考え方に基づいています。

これまで日本の企業では、メンバーシップ型の人材マネジメントが一般的でした。ジョブ型は欧米企業の文化という認識が強かったのも事実です。しかし近年、人的資本経営、グローバル化、ダイバーシティ推進、人件費コントロール、そして従業員の就業意識の変化といった観点から、ジョブ型の導入(部分的な導入も含む)が真剣に議論されるようになっています。
人材マネジメントの大きな違いは「キャリアアップ」の考え方
メンバーシップ型とジョブ型では、人材マネジメントの各テーマにおいてそのスタンスが大きく異なります。中でも最も大きな違いは、キャリアアップに対する考え方です。
メンバーシップ型では、社内でのキャリアアップが前提となり、キャリアに関する決定権(キャリアオーナーシップ)は主に組織側に委ねられます。
メンバーシップ型の企業で働いている方が多いと思いますが、基本的に会社が提示している評価制度やキャリアアップ例を基に皆さんの仕事で求められることが決まってくると思います。
対してジョブ型では、社内キャリアアップにこだわらず、会社は必要に応じて外部から最適な人材を確保します。同時に、従業員も自身のキャリアを主体的に考え、必要であれば社外に活躍の場を求めることが一般的です。そのため、キャリアオーナーシップは従業員本人にも大きく与えられます。
この「キャリアオーナーシップが組織にあるのか、それとも本人にあるのか」という違いは、採用、配置・異動、格付け、評価、報酬、教育といったその他の人事テーマに関するスタンスにも大きく影響を与えます。
なぜ今、メンバーシップ型の課題が浮き彫りになっているのか?
これまでの日本企業には、メンバーシップ型が適しているとされてきました。特に1980年代までは、「事業・組織の拡大」「団塊世代を中心とした人口ボーナス(労働人口が多い状態)」「新卒一括採用・男性中心・内部登用といった同質性」「長時間勤務を当然とする風土」など、メンバーシップ型のメリットを最大限に活かせる内部環境が整っていました。
しかし現在はどうでしょうか。「企業の成長ステージの変化」「能力の加速度的進化と既存能力の陳腐化」「労働力人口の減少」「働き方改革による多様性の確保」といった背景から、企業を取り巻く内外環境は大きく変化し、メンバーシップ型の課題がより一層目立つようになっています。
4つの背景 | 課題概要 |
企業の成長ステージの変化 | 拡大・成長期の企業では「企業の成長」と「構成員の成長」が比例しやすいが、成熟期以降はそれが成立しにくい。 |
能力の加速度的進化と既存能力の陳腐化 | 進化のスピードが速い場合、社内で時間をかけて育成する余裕がない。また、その効果も期待できない。 成長に必要な機会提供が自社では不可能な能力がある。 必要な能力がすぐに陳腐化することがある |
労働力人口の減少 | 「ピラミッド型」の年齢別人員構成を維持できないと、メンバーシップ型の組織設計・運用に限界が生じる |
働き方改革による多様性の確保 | 多様な人材を活用したり、多様な貢献を認める上で、構成員としての同質性を重視する日本のメンバーシップ型は矛盾が多い(例:女性活躍、専門職採用、在宅勤務) |
また、昨今注目されている人的資本経営では、「経営戦略と人材戦略の連動」が強く求められます。この点においても、メンバーシップ型の「適材適所」よりも、ジョブ型の「適所適材」の考え方の方が、経営戦略との結びつきを明確に説明しやすいという側面があります。
経営層は売上・利益を重要な要素として追求しています。そのためジョブ型の戦略のほうが説明しやすいのです。
ジョブ型導入に立ちはだかる日本の壁とは?
とはいえ、日本企業にジョブ型を導入しようとする場合、乗り越えるべき障壁は少なくありません。
ジョブ型導入障壁例 | イメージ |
解雇規制 | ジョブ型の相性が良くない場合、解雇ではなく、別のジョブを会社側が提供する必要がある。 人員増を避ける為には、代替人員を社内異動によって用意する必要がある。 |
メンバーシップ型を前提とした社会ルール | 定年制度や社会保険等、メンバーシップ型を前提にした思想で構築されているルールが多い |
新卒採用中心主義 | 中途採用が増えてきたとはいえ、新卒採用に価値を見出している企業が多い ジョブではなく、「新卒〇年目」という価値判断基準が色濃く残る |
当事者である経営者や社員のメンバーシップ意識 | 人事制度等がジョブ型に変わっても、昇格判断等で「経験不足や能力不足」を理由に議論したくなる意識が残る 社員(若手を含む)の側にも「育成してもらう」「仕事を与えてもらう」という受動的な意識が根強く残る |
よく挙げられるのは欧米企業では一般的な「解雇規制」ですが、実際にはそれだけではありません。特に、「当事者である経営者や社員のメンバーシップ意識」がジョブ型導入の大きな障壁となるケースが多く見られます。
経営者側がメンバーシップ型の人事マネジメントから切り替えられない場合、「制度は変わっても、実際の運用は変わらない」といった状況に陥りがちです。特に、制度上はジョブ型を導入しているにもかかわらず、キャリアオーナーシップは依然として会社側が持ち続けようとするケースが目立ちます。
従業員側も、メンバーシップ型の恩恵が受けられなくなると、これまでの既得権益の保障を求めたり、ジョブ型のデメリットを強く主張したりすることがあります。
さらに、ジョブ型の真のメリットを享受するためには、その定義である「適所適材」を実現するための「あるべき組織・職務設計」が不可欠です。これらを省いて人事マネジメントだけをジョブ型に変えようとしても、期待する効果は得られないでしょう。
まとめ
メンバーシップ型とジョブ型、それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらか一方に偏るのではなく、自社の状況や目指す方向性に合わせて、最適な人材マネジメントのあり方を検討することが重要です。
あなたの会社では、どのような人材マネジメントが最適だと思いますか?ぜひコメントで教えてください!
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