【人事担当者解説】職務等級制度のすべて:ジョブ型人事の根幹を理解する~処遇制度②~

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職務等級制度とは?「人」ではなく「仕事」を評価する仕組み

職務等級制度は、ジョブ型人事制度の代表格であり、その名の通り職務の価値」に基づいて従業員の格付けや報酬を決定する制度です。この制度の基軸となるのは「職務等級」であり、これは従業員が実際に従事する「仕事そのものの価値の大きさ」によって決まります。

これまで日本の多くの企業で採用されてきた職能資格制度が「人基準」で個人の能力や成長に重きを置くのに対し、職務等級制度は「仕事基準」の人事制度と言えます。

職務等級への格付けは、従業員個人の職務遂行能力の有無にかかわらず、実際に担当している職務内容に基づいて行われます。そのため、たとえ個人の能力が向上したとしても、担当する職務内容が変わらなければ、職務等級が昇格することはありません。

現在、職務等級ごとの職務価値を決定する方法は、企業によって多種多様なバリエーションがあります。代表的なものとしては、各職務を評価し、その合計点に応じて職務等級を決定する「点数絶対評価方式」や、社内の役職や職務を相互に比較しながら格付けを行う「相対評価方式」が挙げられます。各社がそれぞれの状況に合わせて独自の工夫を凝らしています。

職務等級の格付けプロセス:職務定義書と評価軸が鍵

従業員一人ひとりの職務等級は、採用、配置・異動、昇進・降職など、職務内容に変更があった場合にその都度見直されます。

具体的なプロセスとしては、まず「職務記述書(ジョブディスクリプション)」によって職務内容を明確に定義します。この職務記述書の内容をもとに、職務の価値を評価していくのです。

職務価値を評価する上では、主に「規模」「重要性」「難易度」の3つの観点が重要になります。そして、評価の判断においては「比較対象」と「評価基準」を明確にすることが不可欠です。

  • 比較対象: 職務価値を世間一般の市場と比べるのか(市場価値)、それとも社内での職務と比較するのか(社内価値)。
  • 評価基準: 職務の価値をありのままに評価するのか(絶対評価)、それとも他の職務と比較した順位で評価するのか(相対評価)。

欧米と比較して職務ごとの労働市場がまだ成熟していない日本企業では、「比較対象は社内価値、評価基準は相対評価」で職務等級を格付けするのが一般的です。しかし、外資系企業やグローバル化が進んだ大企業、さらには特定の専門職種で労働市場が形成されているケースにおいては、「市場価値に基づく絶対評価」で職務等級を格付けしている事例も増えてきています。

職務価値とパフォーマンスの関係:職務定義書が成果を測る羅針盤

職務等級は職務の価値によって決定されますが、実際にその職務を担う人によってパフォーマンスには差が生じます。このパフォーマンスを把握するのが人事評価です。

職務等級制度における人事評価の観点は、「職務記述書で定義された職務を遂行できたか否か」そして「どの程度の水準で遂行できたか」と非常にシンプルです。職能資格制度のように、「プロセスにおける努力の度合い」や「成績の要因となる能力の発揮状況」を詳細に問う必要性は乏しいと言えます。

むしろ、重要なのは「職務記述書」の作成段階で、期待する成果やパフォーマンスの測定尺度を具体的に計画しておくことです。

パフォーマンスが明確に把握できると、「職務価値 × パフォーマンス」という形で、その従業員の実績を客観的に認識できるようになります。つまり、「高職務価値で高パフォーマンス」であるほど高実績と見なされ、その度合いが報酬などの処遇に直接反映される仕組みです。

職務等級制度における賃金制度:職務価値と成果に連動する報酬

職務等級制度における基本給(職務給)の基準額は、能力などの属人的な要素ではなく、原則として職務等級ごとに決定されます。「高職務等級 = 高職務給」となるように設計するのが基本です。

実際に支給する際には、個人のパフォーマンスも反映されます。職務記述書で計画したパフォーマンス通り(例えば100%達成)の場合を基準額とし、個々のパフォーマンスに応じて加算や減算が適用されます。

特筆すべきは、パフォーマンス次第では、上位の職務等級の職務給を超えることもあれば、逆に下位の職務等級の職務給を下回ることもあり得る点です。

また、職能資格制度の基本給(職能給)とは異なり、職務等級制度で定期昇給を行う場合、その根拠となるのは「(等級変更するほどではない程度の)職務拡大」や「業績インセンティブ」など、職務や成果に紐づくものが多くなります。

各等級の給与レンジ(レンジレート)は、グローバル企業であれば職務の市場価値などに基づき柔軟に運用することもありますが、日本企業では等級間の重複を避けるパターンが多く見られます。

ちなみに、職務等級制度では賞与の支給を当然視しない企業も存在します。そのような企業では、通常の職務価値やパフォーマンスにふさわしい賃金の支給は月給で完結させる考え方です。当初の計画を超えるパフォーマンスや、想定外の職務を担った場合に賞与を支給することもありますが、その支給が保障されないのが特徴と言えるでしょう。

最後に

職務等級制度は、企業を取り巻く環境変化に対応し、従業員の「仕事」への意識を高める上で非常に有効な人事制度です。しかし、導入には職務定義書の明確化や評価基準の整備など、入念な準備と運用が不可欠です。

あなたの会社では、職務等級制度の導入を検討されていますか? ぜひ、ご意見やご質問をコメントでお聞かせください。

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